黒沢清監督香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海、井川遥、役所広司
佐々木家はトウキョウに暮らす一見ごく普通の4人家族。平凡なサラリーマンの父・竜平は、家長としての自負を持ち、家族のために懸命に働いてきた。ところが、ある日リストラであっさり会社をクビになってしまう。その事実を家族に伝えられず、毎朝スーツで家を出ては、公園などで時間をつぶす竜平。母・恵は、せっかくドーナツを作っても誰にも見向きもされないなど、やり場のない不満と虚無感を募らせる。一方子どもたちも、大学生の長男・貴は、突然アメリカ軍への入隊を志願し、小学生の次男・健二は家族に内緒でピアノ教室へ通い続けていた。すっかり家庭崩壊への道を突き進む佐々木家だったが…。
日本で一番信頼している黒沢監督だが、今回は微妙。俺は、彼の作る、実験的映像やどうにも笑ってしまう悪ふざけが好きなのだ。よくある家族映画を装っているのかもしれないけども、俺はよくある家族映画、を観ないため、とくにパロディとも感じられない。ただのベタな設定に過ぎない。米軍に入るとか、ところどころおかしい意味深なところもあるけども。
もちろん今回も、ある一定のところから、役所広司と供に一気に破綻していくわけで、それは好きなので、健在で良かった。いまいち消化不良ではあるが。なんだか意味深な画も健在で、これは、この人のやることの中では、俺そこまで好きではないのだ。部屋に「国境」が書かれた息子の部屋とか、ああいうの。『回路』のときの、ドアを黒く塗りつぶすシーンみたいなやつ。
そしてそれとはまた違う、こと人にしかできない、悔しいけど印象に残ってしまうシーンも多数。不自然なくらい長くビールを飲む香川、そしてそれを待つ家族という、今となってはリアルじゃない「父親の権威」を描いたシーンはなんだか不思議。いやに冷めてる小学校教師、ストーリーに関係なく離婚するピアノ教師。清掃員の仕事終わりでスーツに着替えるおっさんとか、小泉今日子が観た海の光とか、インテリぶった映画ファンが観たときにあとから何かしらのこじつけができそうなシーンがいっぱいで、そこらへんが上手いのでしょう、この人は。でも俺は、そういうのには興味ないから、何にこじつけようとも思わないため、「ただなんとなくそうしたかっただけなんじゃねえの」と思うから、思うようにしてないと映画を楽しめないから、なんとも思わないのだ。
ただラスト10分の、素晴らしいほどあっけない、家族が帰り浄化したあとの清々しさには目を見張る。こんなにすっきりとして奇麗なものをできるなんて、この人は引き出しが多い。『アカルイミライ』や『回路』の清々しさとはまた違う種類。変な人。
そして風でカーテンが揺れる中の、ドビュッシー「月の光」1曲丸々は、舞台的というか、確かに印象に残るよね。その後のエンドロールは、音楽なしに生活音が延々流れ、唐突に映画は終わってしまう。映画館を後にした俺は、珍しくiPodを聞くこともなく、都会の町並みを、なんだか感受性のかたまりで闊歩してしまった。


